1989年創立 個の出会いと交流の場 研究会インフォネット
HOME 研究会インフォネットとは 会員規約 お問い合わせ
会員専用ページ
過去のINFONET REPORT カレンダー 会員連載エッセイ なんでも掲示板
会員紹介 財務報告
会員連載エッセイ
最近の記事 以前の記事
ボーダーを越えて
95 ホンジュラス(16)バナナ共和国
2006年11月20日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 道路脇の中米らしい風景。民家の不思議な緑色はメキシコでも人気のある色で、多くの壁がこの色のペンキで塗られている。
▲ テラの街を走る電線。これでよく間違えずに配電できるものだと感心させられる。
[随分とご無沙汰してしまいました。前のホンジュラス報告はもう忘れられてしまったかもしれませんが、まだ続きがあるのです。間が抜けてしまいましたが、再開します。よろしく。]

マヤ遺跡のコパンで一泊した翌日の午前中は、近くのオウム養護園へ行った。もともとはコーヒー園で、丘の斜面に生い茂る大木の影にはコーヒーの木が並んでいる。そこに南米各地からペットとして連れて来られて病気になって飼い主の手に負えなくなった各種のオウムが集められ、治療を受けて元気になって住んでいるのだ。オウムも広い森林も手入れが行き届いていて、訪れただけで気分が休まるが、1人10ドルという入場料は地元庶民には高く過ぎる。コパンの遺跡にやって来た外国人観光客向けの、いわばエコツーリズムなのだろう。

コパンの町自体が外国人観光客相手のホテルやレストランやギフトショップやインターネットカフェで成り立っているが、それほど俗化していない。こじんまりしながらもコスモポリタンの雰囲気が漂って、コパンの遺跡と調和しているように感じた。でもそれは、観光客の数がたまたま少なかったからかもしれない。

お昼過ぎにコパンを出発し、1日半の中休みはこれでおしまい。リアリティツアー再開で、今度は北部カリブ海沿岸へと向かった。アフリカ系のガリフナ(Garifuna)の人々を訪れるためだ。

コパンから東に向かって工業都市サンペドロスーラをバイパスし、今度は南に向かう。道路の両側に工場が並んでいる。安い労働力を利用したマキラドーラ(maquiladora)と呼ばれる外国資本の組み立て専門の工場だ。サンペドロスーラから離れるに従って工場も少なくなり、水田が広がり始める。ホンジュラスは米作が盛んだ。いや、盛んだった。が、現在は北のアメリカから安いお米がどっと流入し、ホンジュラスの米作産業は大打撃を受けて瀕死寸前状態なのだ。作物は違うが、メキシコでもジャマイカでも同じような事態が起きている。

さらに南に下ると、水田に代わってバナナ園が続いて、ホンジュラスがかつて「バナナ共和国」(バナナ・リパブリック:Banana Republic)と呼ばれたことが思い起こされる。国の経済が外国資本に支配された農産物の限られた輸出に依存し、一握りの腐敗した裕福な支配層による独裁体制の小国を指したこの蔑称は、短編作家O・ヘンリーが100年ほど前に『キャベツと王様』(Cabbages and Kings)という物語の中で初めて使ったという。O・ヘンリーは明らかにホンジュラスを材料にこの物語を書いたのだったが、ホンジュラスというお国柄がバナナ共和国を生んだのではないし、ホンジュラスだけがバナナ共和国と呼ばれたわけでもない。バナナ共和国は、ユナイテッド果実会社(United Fruit Company)やスタンダード果実会社(Standard Fruit Company)というアメリカの巨大資本が広大な土地を所有し、産物出荷のために鉄道を支配し、経済を左右して政治を牛耳った結果であり、中米やカリブ海諸国の多くがそうなのだ。

たかが果実会社と軽く考えたら大間違いで、アメリカの果実会社は20世紀の中米諸国の政治を左右するほど力を持っていた。1910年には、クヤメル果実会社(Cuyamel Fruit)の人物がニューオーリーンズのギャングを雇ってホンジュラスにクーデターを起こし、果実会社に都合のいい条約を新政権から絞り出している。この人物は22年後にユナイテッド果実会社を乗っ取った。さらに、ユナイテッド果実会社はグアテマラでの利益保護のために、アメリカ政府を動かして1954年に左翼政権をクーデターで倒させ、その後の長いグアテマラ内戦の引き金となったほどなのだ。その後、ユナイテッド果実会社はチキータ(Chiquita)に、スタンダード果実会社はドール(Dole)に改名され、組織の再編成もされて現在に至っている。

南に下る道路が東西に延びる道路とT字型にぶつかる地点に、エルプログレソ(El Progreso)という町がある。「進歩」とか「前進」とかいう意味だが、そこはバナナ園労働者が労働条件向上を要求して労働組合結成に成功した歴史を持つ。それでこの地名が付いたのかどうかはわからないが、ホンジュラスの人々が黙って搾取を甘んじて来たのではないことが伺われる。

私たちはエルプログレソから東に向かった。今度は道路の両側にアブラヤシ(英語ではAfrican palmsという)の林が延々と続く。その面積はバナナ園の何十倍、いやもしかしたら何百倍にも見える。一様に大きな木から想像すると、植えられたのは30年ぐらい前ではないかと思われる。何という名前の会社がこんなに資本を投入したのか知らないが、やはり外国資本だろう。バナナからアブラヤシに切り替えられたのが多いという。

太陽が傾きかける頃、ようやくテラ(Tela)という海岸町に到着した。バナナ会社の根拠地として発展した町だ。会社の重役や従業員の住宅がまだ残っている。目的地のガリフナの町、トリウンフォ・デ・ラ・クルス(Triunfo de la Cruz)まであともうちょっとだが、テラでコーヒーを飲んで一休みしていくことにした。車から降りると、空気が生暖かい。カリブ海の空気だ。改めてホンジュラスの多様性が膚で感じられた。ここはもうガリフナ地域なのだ。


(註1)「バナナ・リパブリック」を日本語版ウィキペディアで検束すると、熱帯の雰囲気を漂わせた衣料チェーンのことしか出て来ない。「バナナ共和国」を検束すると、「ホンジュラス」が出て来て、そこに「政治経済をアメリカ資本のバナナ産業に依存してきたため、バナナ共和国とも呼ばれる」とある。

(註2)最近では「バナナ共和国」の意味は広がって、裕福な支配層の独裁的政治により貧富の差が激しい国を指すようになり、所得格差がますます広がっているアメリカもバナナ共和国ではないかという意見が飛び出したりしている。
最近の記事 ページトップへ 以前の記事
ボーダーを越えて
雨宮 和子
かくてありけり
沼田 清
葉山日記
中山 俊明
寄り道まわり道
吉田 美智枝
NEW
僕の偏見紀行
時津 寿之
NEW
老舗の店頭から
齋藤 恵
ぴくせる日記
橋場 恵梨香
縁の下のバイオリン弾き
西村 万里
やもめ日記
シーラ・ジョンソン
徒然.... in California
明子・ミーダー
きょう一日を穏やかに
永島 さくら
ガルテン〜私の庭物語
原田 美佳
バックナンバー一覧
199 お葬式
198 とうとうやって来た日、そして雨
197 思い切り生きる
196 一夜が明けて
195 ヘザーと私の日本旅行記(6 下)文楽とフグ
194 ヘザーと私の日本旅行記(6 上)ショッピング
193 ヘザーと私の日本旅行記(5)多様な日本
192 ヘザーと私の日本旅行記(4 下)河津桜と温泉
191 ヘザーと私の日本旅行記(4 上)伊豆へ向かう
190 ヘザーと私の日本旅行記(3)葉山・鎌倉
189 ヘザーと私の日本旅行記(2)江戸・かっぱ橋・オフ会
188 ヘザーと私の日本旅行記(1) 日本到着
187 生ある日々を
186 花嫁の父
185 プラチナの裏地
184 家族をつなぐ指輪
183 「血の月」を追いかけて
182 ママハハだった母
181 アジア人(下)固定観念を越えて
180 ジプシーの目
179 選挙に映ったアメリカの顔
178 とうとう、きょう
177 アジア人(上)その概念
176 海軍出身
175 特攻志願
174 お祭り
173 ありがとう、で1年を
172 クリスマスプレゼントが今年もまた
171 スージー・ウォンの世界
170 秩序の秘訣
169 黒い雲の行方
168 ドアを開けたら
167 今年もまた
166 ボリビア(7)ボリビアで和菓子を
165 ボリビア(6)パクーの登場
164 ボリビア(5)卵の力、女性の力
163 ボリビア(4)小麦の都
162 ボリビア(3)米の都
161 ボリビア(2)2つの日系移住地
160 ボリビア(1)サンタクルス
159 闇の中で
158 みんなの宝物
157 新語の中身
156 年末のご挨拶
155 ピッチピッチチャップチャップ
154 神の仕業
153 ラタトゥイユ(2)レシピ
152 ラタトゥイユ(1)
151 プティ・タ・プティの最後の1片
150 ジプシーとの知恵競争は続く
149 豊かな粗食
148 中絶抗争
147 スーザン・ボイルの勝利
146 黄昏の親子関係
145 子ども好き
144 言葉雑感(8)regift
143 言葉雑感(7)「ん」の音
142 アメリカの理想
141 ときめく日の足音
140 言葉雑感(6)ミルクとは
139 ミルクの教訓
138 年末の独り言
137 投票日日誌
136 あと3日
135 ペイリンから見えるアメリカ
134 訴訟顛末記(1)まず弁護士を
133 園遊会で
132 柔の姿勢
131 言葉雑感(5)4文字言葉
130 豪邸の住人
129 言葉雑感(4)カミはカミでも
128 言葉雑感(3)ブタ年生まれ
127 言葉雑感(2)子年のネズミ
126 言葉雑感(1)グローバルなピリピリ
125 やって来た山火事(最終回)これから
124 やって来た山火事(9)いとおしい木々
123 やって来た山火事(8)現実に直面して
122 やって来た山火事(7)焦燥の2日間
121 やって来た山火事(6)私の方舟
120 やって来た山火事(5)避難準備
119 やって来た山火事(4)止まない風
118 やって来た山火事(3)第1日目の夜
117 やって来た山火事(2)第1日目の夕方
116 やって来た山火事(1)第1日目の昼下がり
115 しあわせな1日
114 チェ
113 メキシコの息づかい
112 「石の家」
111 「バッキンガム宮殿」での晩餐会
110 ケーキ1切れ
109 「豊かさ」の中身
108 イタリアの修道僧
107 3年ぶりの日本
106 キューバ:アメリカの恥
105 キューバ:バラコア
104 キューバ:甘い歴史の苦い思い出
103 キューバ:2つの通貨
102 キューバ:近過ぎて遠い国
101 ホンジュラス(最終回)去る者,残る者
100 ホンジュラス(19)シエンプレ・ウニードス
99 ホンジュラス(18)ガリフナ放送
98 あと1年、だったら
97 無信仰者のクリスマス
96 ホンジュラス(17)ガリフナ
95 ホンジュラス(16)バナナ共和国
94 ホンジュラス(15)マヤ文明の跡
93 ホンジュラス(14)牢獄の中と外
92 ホンジュラス(13)先住民の女性たち
91 ホンジュラス(12)一番安全な町
90 ホンジュラス(11)オランチョの森(下)
89 ホンジュラス(10)オランチョの森(上)
88 金鉱の陰で(追記)カリフォルニアで
87 ホンジュラス(9)金鉱の陰で(下)
86 ホンジュラス(8)金鉱の陰で (中)
85 ホンジュラス(7)金鉱の陰で (上)
84 ホンジュラス(6)原則に沿って
83 ホンジュラス(5)農地のない農民
82 移民政争とラティノの力(続)
81 移民政争とラティノの力
80 ホンジュラス(4)消え去った人々
79 ホンジュラス(3)ホテル・ナンキンで
78 ホンジュラス(2)レンピーラ
77 ホンジュラス(1)行ってみよう
76 本物を見る
75 豊かな心
74 蝶の力
73 単刀直入
72 愛の表現
71 ベネット・バーガー
70 感謝の日
69 思わぬ道草(最終回)原点
68 思わぬ道草(19)回復に向けて
67 思わぬ道草(18)人は孤島にあらず
66 「ニューオーリーンズ」に見えたもの
65 思わぬ道草(17)一歩後退の教訓
64 思わぬ道草(16)日没症候群
63 甦生の兆し
62 ニューオーリーンズとクリスチャン
61 思わぬ道草(15)もつれた糸
60 思わぬ道草(14)彼の青い目(下)
59 思わぬ道草(13)彼の青い目(上)
58 思わぬ道草(12)ローマ鎧
57 思わぬ道草(11)看護師騒動
56 思わぬ道草(10)近くの他人
55 思わぬ道草(9)ロールバー
54 思わぬ道草(8)楽観の2日間
53 思わぬ道草(7)一人三脚
52 思わぬ道草(6)長い夜
51 思わぬ道草(5)OR
50 思わぬ道草(4)ER
49 思わぬ道草(3)常習犯
48 思わぬ道草(2)目撃者
47 思わぬ道草(1)3月14日の夕方
46 訛った英語
45 イギリスの英語
44 英語とアメリカ
43 海の中に(下)
42 海の中に(上)
41 姓というマーカー(下)
40 姓というマーカー(上)
39 国籍あれこれ:選択肢
38 国籍あれこれ:彼の場合
37 国籍あれこれ:私の場合
36 ボーダーとは
35 最終回:グローバリゼーション
34 番外編:クリスマス・ディナー
33 サンタアナの風
32 お刺身パーティー
31 アボカド泥棒
30 アボカドと生きる鳥
29 カラスのご馳走
28 三つ子の魂
27 子宝のもと?
26 アボカド探検家
25 ゴールドラッシュの波紋(下)
24 ゴールドラッシュの波紋(上)
23 海を渡って(下)
22 海を渡って (上)
21 コンキスタドール
20 アボカド事始め
19 ハースマザーの行方
18 世界アボカド会議
17 フエルテ
16 ハースマザーの木(下)
15 ハースマザーの木(上)
14 鶏より馬
13 働く人々
12 花婿の父
11 シンコ・デ・マヨ
10 「奇跡の3月」
9 アボカド形の穴
8 父親不明
7 女性花・男性花
6 トーマスのギャンブル(2)
5 トーマスのギャンブル(1)
4 成熟と完熟
3 グァカモーレ
2 アボカドさまざま
1 メックスフライ
ページトップへ
Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved. Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等、全てのコンテンツの無断転載・複写を禁じます。
0 7 5 9 6 6 8 9
昨日の訪問者数0 4 0 6 3 本日の現在までの訪問者数0 1 2 0 4