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葉山日記
20 囚人のジレンマ
2003年8月9日
中山 俊明 中山 俊明 [なかやま としあき]

1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。

ニックネームはTOSHI、またはiPhone-G(爺)
週末というのに、いま台風通過中で外は暴風雨。好きな庭仕事もできないので、ベッドに寝っころがって文庫本を読んでいたら「囚人のジレンマ」という面白い話にぶつかった。これはもともと「ゲーム理論」という数学の一分野で考えだされたものだそうだ。もしあなたが以下の囚人の立場に置かれたら、どんな行動をとるだろうか。

2人の囚人が別々の房に入れられている。警察は2人を、ある共犯の容疑で取り調べている。それぞれの囚人は、相棒のことを密告する(「離脱する」)か、あるいは沈黙を守りとおす(「協力する」−ただし、警察とではなく相棒との協力)かのいずれかを選ぶことができる。

いま、囚人はどちらも、2人が沈黙を守りとおせば2人とも釈放されることを知っている。自白がなければ警察は容疑を固めることができない。しかし、このことを警察は十分わかっていて、それぞれの囚人にちょっとした餌を用意している。囚人のうち1人が離反を選び、相棒のことを密告すれば、その囚人は免責されて自由の身になるーおまけに、報奨金までもらえる。

一方、相棒のほうは、その犯罪に対して目いっぱいの刑を宣告されるーそればかりか、密告者に与える報奨金をまかなうために罰金を科せらるという、踏んだり蹴ったりの目にあう。もちろん囚人が<2人とも>相手を裏切れば、どちらも最高刑に服し、またどちらも報奨金をもらうことができない。

以上、きわめて単純な状況設定だが、コンピュータにこれら条件をインプットして、起こりうるあらゆるケースをシミュレーションするととんでもない膨大なデータになってしまうという。囚人はたった2人、彼らのとりうる選択は常に2つに1つなのに、想定できるケースはほぼ無限にあるわけだ。

このたとえ話から僕らのまわりでいま起こっているいくつかの具体的出来事を考えた。たとえばフセイン元大統領の長男ウダイ氏と次男クサイ氏は、密告により米軍に射殺されてしまったが、居場所を通報した人物には懸賞金3000万ドル(約36億円)が支払われた。

この密告者はフセインの親戚らしいが、行動を起こすにあたってはフセインからの「離脱」か「協力」かを彼らは脳内コンピュータを駆使しそれこそ死にものぐるいで考えただろう。フセインからの「離脱」を選択すれば、大金を得ても一生刺客に追いまわされ国外のどこかにひっそりと暮らさねばならない運命が待ち受けているだろう。ましてや、まんがいちフセインがこのまま逃げおおせて復権を果たしたら。またたとえ、フセインが殺され、その勢力が一掃されたとしても、密告して大金を得たという、人間としてあるまじき行動は同国民からの軽蔑を買うだろう。なにより高額報奨金を支払うという米軍の言葉は信じられるのか。36億円という報奨金はどこから支出されるのか。IFの条件は数限りなくある。

話を国内に戻し、話題の道路公団はどうだろう。藤井総裁はフセインに擬せられている。かつての部下、片桐氏はそのワンマン総裁からの「離脱」を選択した。内部告発の手段は月刊誌。イラクと違うのは、「密告」しても報奨金がでるわけではない(少しばかりの原稿料は出るかもしれないが。ところで「密告」と「内部告発」の違いはなんだろう?)。

では彼が「離脱」行為によって代わりに得られるものはなにか。「自分が信じる正しい道を歩みたい」という人間としての信念そのものがその動機であろう、と僕は信じたいが、人間がそう単純な生き物でないことは百も承知。自分を冷遇したトップへのさや当てか、トップの首を撥ね自分の復権を果たしたいのか。むつかしいのはこういう場合、名前が出てしまった告発者はどう転んでもいいことはない(そうか名前を出す覚悟のあるのが「内部告発」、匿名が「密告」か? いやそれも違うな)。

名前をだして捨て身の戦いを挑めば、それだけインパクトは強く、敵に与えるダメージも大きいが、自分自身の傷つきかたが極めて大きい。良くて総裁の首が「管理不行き届き」を理由に切られ、片桐氏は「組織の秩序を乱した」ことを理由に閑職へという「けんか両成敗」(現に事態はそうなりつつある)。片桐氏の戦いはこの結果でも「勝利」ということになる。それだけの結果しかないのに戦いを挑んだ、という理由がゆえに、やはり僕は片桐氏の行動の方に人間としての救いを感じるのだ。

問題はいま藤井総裁を取り巻く役員、管理職、そして一般職員の置かれた位置だ。それぞれの個人が総裁からの「離脱」か「協力」かの選択に、彼らの脳内コンピュータをフルに働かせて考えているはずだ。その選択次第で、その後の彼らの人生は大きく変わる。旗幟鮮明にせず事態が一段落をみせる、大多数の職員はそれを望んでいるに違いない。つまり、自らはまったく傷つかず、組織自体は改革される方向だ。

自民党総裁選にも同じことがいえる。いま多くの自民党員の脳内コンピュータは、小泉現総裁からの「離脱」か「協力」かでフルに動いている。小泉さんからの「離脱」を選択して党内・橋本派が押す候補に「協力」する自民党員が多くなれば、小泉総裁再選の目はない。しかし、総裁選に敗れた小泉首相がいっきに解散に出てしまったら。選挙の結果、民主党と自民党が拮抗し、自民党が分裂して、分裂自民党・小泉派と民主党が手を結んだら。こんな状況もけして起こりえないとはいえない。

考えてみれば「囚人のジレンマ」はバーチャルゲームではなく、われわれ人間が生きてから死ぬまで繰りかえすリアルゲームだともいえる。
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