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ボーダーを越えて
98 あと1年、だったら
2007年1月1日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ いま、裏庭で咲いているバウヒニア(Bauhinia)。俗名Hong Kong Orchid Tree。 冬中ずっと次々に咲き続ける。
「あなたの余命はあと1年、と医者に通告されたら、どうする?」
すみません、新年早々に心穏やかではないことを持ち出したりして。でも、つい先日、友人にそう聞かれたのです。

なんでも彼女の読書グループで、あと余命が1年だったら何をしたいかを考え、それを実行せよ、という本を読んでいるのだそうな。私はその本は読んでいないので、その本の著者の意図はわからない。人生いつどんなことがわからないからできるときにしたいことをしなさいということなのか、余命が限られていると思えばずるずる引き延ばしていたことを思い切ってやる気になるから充実した人生が送れるということなのか、それとももっと別の意味があるのか。著者の意図はともかく、読書グループのある人は、これまで行きたいと思いながらも実行できなかった所へ2007年中に全部旅行することにしたという。アフリカ、インド、シンガポール、ペルー、あともう1カ所はどこだっけ…

旅行ねぇ。私もタンザニアに是非もう1度行きたいと思い続けてきたし、モンゴリアの草原を馬で走り回ってみたいと思っているけれど(でもその前に乗馬を習わなくちゃ)… でも、あと1年しか残っていない人生をタンザニアやモンゴリアで遊んで費やすのは、物足りないというか、勿体ないというか、申し訳ないような、どうも気持ちが落ち着かない。

「あなたはどうする?」と答えを催促されて、2つのことが私の口から飛び出した。これまで書きかけになったいたものをできるだけ書き続けることと、おいしい料理をせっせと作っていろいろな人に食べてもらうこと。私のことをよく知っている友人は、なるほど、と言うように頷いた。

書きかけになっているのは2つある。1つは母のこと。私の記憶にある母の、短かったけれど一生懸命に生き抜いた姿を書き留めておくことが、私の原点の核である母への恩返しのような気がしているから。誰かに見せようとか読んでもらおうとかいうつもりではなく、ただ書き残しておきたいだけ。これまで印象の強いものをいくつかを、1篇(英語で)1000語ぐらいの短い文章にまとめ、読み返すたびに言葉や文を練って練って練り直すということを繰り返してきた。そのうちの2つを、去年の夏、ある園遊会で朗読したら、辺りがシーンとしてみんなが聞き入ってくれた。母は無になったのではない…そのとき、そう思えた。母のことを書くというのは、雨宮敏子という人が確かにこの世に存在したという証拠を残すことなのかもしれない。証拠はもっともっと残さなければ。

もう1つ書きかけになっているのは、沖縄の戦後ボリビア移民の件だ。論文はあちこちに発表してきたのだが、全体像をまとめ上げるような結論が出ていない。勉強不足にしたままだから。この調査の最初から無限の協力をしてくださった一世の中核の方々は、この数年で次々に他界されてしまった。このままではあまりに申し訳ない。きちっとまとめ上げなければいけない。

書き物というのはいつまでも残るけれど、料理は食べてしまったらそれっきりで、残るのは思い出だけだ。おいしいものを作って友だちに食べさせたいというのは、「食」を通して思い出を残したいという気持ちがあるのかもしれない。でも、心の通った人たちといっしょに食事をするというのは、思い出以外の何かか残る。心がもっと通い合い、温まり、何かが育っていく。それが、デンマーク映画の「バベットの晩餐会」に見事に表現されていましたね。バベットのようにはいかないけれど、おいしいものを作って、私が大事に思う人たちに食べてもらって、生きている時間を十分に分かち合い、生きていることを喜び合いたい。そう思う。

近年、料理がますます好きになったからだろうとは思う。面倒くさがりやだったのに、このごろは手間をかけることが苦にならないどころか、手間をかけなければ出ない味を出すのが楽しくなってきたのだ。私たちの肖像画を描いてくれた画家のアルフレード・アントニーニさんは料理も上手で、おいしい食事を作ったときは、何かとても重要なことを成し遂げたような気がすると言う。同感! 去年、ある友人のパーティーのために、丸2日かけてインド料理をたくさん作ったのだが、大変だったなどとは全く感じず、むしろ作る過程がとても楽しかった。おまけにパーティー参加者全員がとても喜んでくれて、私も大いにうれしかった。もっともっとおいしいものが作れるようになりたい。それを友人たちと思い切り分かち合いたい。

以上の2つができたら、充実した1年を送れるのではないかと思う。

ただ、気になることがある。自分の住んでいる国が世界に功罪を振りまいて無数の人々を痛めつけていることにどう対処しながらこの1年を生きたらいいのか。それがわからない。その課題を抱えながら、迷いながら、1年を送りそうです。
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103 キューバ:2つの通貨
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91 ホンジュラス(12)一番安全な町
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88 金鉱の陰で(追記)カリフォルニアで
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36 ボーダーとは
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34 番外編:クリスマス・ディナー
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32 お刺身パーティー
31 アボカド泥棒
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18 世界アボカド会議
17 フエルテ
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15 ハースマザーの木(上)
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10 「奇跡の3月」
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