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僕の偏見紀行
131 ベトナムの風の中で(3)ホイアン町歩き
2012年3月6日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 平日の朝、カフェの熱い闘い。
▲ 小学校の校門そばの駄菓子屋さんと楽しそうな子供達。
▲ ホイアン旧市街の路地裏。土壁のこの色合いがとても気に入った。
翌朝、朝飯にフォーとピータンなどのトッピングを載せたお粥、そしてたっぷりのフルーツ、特に大好物のスイカ、を腹いっぱい食った僕は幸せな気分でホテルから散歩に出かけた。民家が続く下町の一角のカフェに朝から人だかりがしている。

近寄ると店の軒先や露天のテーブルでは、将棋盤を前にしたゲームで盛り上がっている。対戦する2人も取り巻く人々も相当熱くなっている。直径3cmくらいの丸い駒が盤上で戦いを繰り広げ、そばには点数表を持った女性が控えている。朝から賭け事だろうか、仕事はどうしたのだろう。

カフェをはさんで通りの向こうから子供達の騒ぐ声聞こえてくる。学校があるようだ。休み時間なのだろう、沢山の子供が校庭を楽しそうに走りまわっている。子供の遊ぶ姿はいいものだ。見ているほうも楽しくなってくる。

時々子供達が校門の鉄柵まで走り寄っている。見ると門の前には駄菓子の屋台が店開きをしていた。子供達は柵に走り寄ってはその隙間から金を払って、屋台のオバアサンからお菓子を買っていた。学校で買い食いが出来るなんて羨ましい。

ホテルから旧市街へはトゥボン川の橋を渡って徒歩で10分足らずだった。世界遺産に登録された古い町並みはぶらぶら歩いて一周出来る広さで、散策を楽しむのにちょうどいい。連なる民家は、黒い瓦屋根とオレンジに近い明るいベージュ色の土壁がほどよく古さび、ヒビ割れた壁に緑のツタが垂れている。

通りは古民家を改造したカフェやレストラン、ブティックが立ち並び、歩きつかれたらいつでもお茶など飲んで一休みできる。カフェのイスにもたれ、人の流れをぼんやり眺めるのもいいものだ。小さなカフェの奥には思いがけず緑豊かな広い庭が隠れていたりもする。

ラオスのルアンパバンにも似ているが、もっと旅行者向きの、外国人に便利で快適な観光の町だと思う。しかしそのことが全ての旅行者に評価されるかどうか、僕には分からない。「未知の不便さ」に遭遇するのも旅する楽しみの一つとする考えもある。あっマズイ、またもやつまらぬ屁理屈をこねてしまった。悪いクセだ。

歩き回っていたら小さな地元旅行社が目に付いた。明日の予定を相談しようとそこに飛びこむ。中年のオヤジが一人、暇そうに店番をしている。ダンゴ鼻にドングリ眼、よく見ると案外愛嬌のある顔つきである。

商談の前にこちらの手の内を知られてはいけない。幾多の修羅場を乗り越えてきた僕は、気のないそぶりで壁に貼られたツアーのポスターを眺めた。そしておもむろに、明日一日暇なんだけど、とつぶやいてみた。するとオヤジもあまり気乗りのしない態度で、ミーサンでも行くか、という。

ミーサン?そういえばどこかで聞いたような、たしかそんな遺跡がホイアン郊外にあるようだ。専用バスでミーサン遺跡観光、ホテル送迎、ガイド、ランチ付き、帰途はボートで川を下る、これで6ドル。

そういうとオヤジは、どうだ安いだろう、という顔をした。えっ!500円、安い、と僕は思ったけどそんなことはおくびにも出さない。そして明後日のフエ行きに話題を変えた。

未だベトナムの列車に乗ったことの無い僕はフエへ行くのにどうしても鉄道を利用したかった。キップの手配について尋ねると、オヤジは時刻表と運賃表をを持ち出し、ダナンからフエの指定席(軟座)8ドルだという。

そういいながらも、なんでバスで行かないんだ、と不審顔だ。うちのオープンツアーバスならここから直接フエまで6ドルで行くぞ、列車ならここからダナン駅まで行くのにタクシー代12ドルもかかるぞ、という。案外親切なオヤジかな、チラと僕は思った。

僕は列車にこだわり、ホイアンに来たときと同じローカルバスでダナンに戻れば安い、と頑張った。すると、ホテルからローカルバス乗り場、そしてダナンのバス停から鉄道駅まで、この移動にもカネがかかるぞ、という。いわれてみれば確かにそうだ、それにバイクタクシーにもう一度乗るのもあまりぞっとしない。

先ほどのミーサンツアー6ドル、鉄道のキップ8ドル、ダナン駅までのタクシー12ドル、合計しても26ドルだ。一日観光して、200km近く離れた町までタクシーと列車で移動して約2000円、安い。自国の通貨が強いというのはこんな事なんだ。

勿論僕は安いなどとはそぶりも見せず、おもむろにこれを値切り始めた。全部まとめてお宅に頼むからもっとまけてくれ、20ドルにならないか。それを聞いたオヤジはいきなり両手を上げてバンザイした。つまりそれでは赤字でどうにもならない、お手上げと言いたいらしい。旅行社が決めたた業界価格なのだ。値切る客など余りいないのだろう。

こんなやりとりを互いに下手な英語で延々と続けるうちに、いつしか僕はそれを楽しんでいた。愛嬌のあるオヤジが好きにもなってきた。適当なところで僕が妥協すると、オヤジはあちこち電話をかけ、素早くバウチャーを書いた。のんびりした顔つきに似合わず仕事は素早い。オヤジが気に入った僕はついでに若干の両替も頼んだ。

商談がまとまりオヤじと握手をして店を出た。話しに夢中になっているうちにお昼を過ぎていた。今日はホイアン名物ウドン、カオ・ラウを食べるのだ。旅行社で教えてもらった地元でも評判の店に向かった。

カオ・ラウは日本の伊勢ウドンがルーツといわれている。交易時代に日本人が伝えたらしい。太めの米麺に鶏肉や野菜のトッピングのっている。店によってスープやトッピングに特徴があり、それぞれに味が異なる。

狭い入り口から店に入ると中には中国人らしい旅行者のグループが賑やかに食事の最中だった。食にうるさい中国人のメガネにも適う店なのだろう。フォーとは趣の違うそれは、香菜を除けば日本のウドンに似た素朴な味わいだった。

中国グループはこのカオ・ラウのドンブリのかたわらにヤシの実を置いて旨そうにストローで飲んでいる。僕もつられて店の主人に頼んだ。冷えたヤシのジュースはやや日向くさい香りがして、素朴な甘さが歩き回って渇いたのどに美味しかった。カオ・ラウとグリーンティー、ヤシの実1個、これで300円弱、安くて旨い。

満足した僕はなおもブラブラ歩きを続けた。ふと両替店が目に付いたので店頭のレート表をチェックした。すると先ほどの旅行社に比べてかなり円が高い。これは愛嬌オヤジにやられたようだ。人がよさそうに見えて商売は甘く無かった。事前に相場を調べていなかった僕の初歩的な失敗だ。修羅場を乗り越えてきた、などと思い上がっていると痛い目にあう。(続く)
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63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
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55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
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52 風に吹かれて八丈島(2)
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50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
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8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
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