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僕の偏見紀行
221 またもやベトナム(1)6度目のホーチミン
2017年6月3日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 夜のホーチミン、ドンコイ通り。たくさんのショップやレストランが並ぶ。買い物の日本人観光客が多い。
▲ 右手がオペラハウス、市民劇場とも呼ばれる。正面が今回の宿、コンチネンタル ホテル サイゴン。左手がドンコイ通り。
▲ ホテルのレストランから続く中庭。ここでの朝食は楽しかった。
今年の1月にバンコクへ行って来たばかりの僕らが、またもや暑い3月のホーチミンにやって来た。思えば今から7年前、初めての海外一人旅で降り立ったのが、このホーチミンの空港だった。

それから7年、何度も訪れることになったホーチミン、今回で6度目になる。なんでこんなに度々来たのか、はっきりとした理由は無い。強いて言えば食い物が旨いこと、そして暑いけど爽やかな乾期の気候が気に入ったのかもしれない。

勿論いいことばかりではない。大通りを埋め尽くすバイクの流れはすさまじい騒音と排気ガスをまき散らし、道路を横断するのも命がけだ。人々はおおむね素朴で親切だが、時にタチの悪いタクシードライバーや客を小馬鹿にするホテルのフロントに出くわすこともある。

たまにトラブルに遭遇することもあるが、それもアジア旅の面白さと割り切ればいい。空港を出た途端、押し寄せる人の群れ、まとわりつく熱気、たちまち僕の心と身体が元気になってくる。

実はこのベトナム行きがバンコクより先に決まっていた。ベトナム行きの航空券とホテルの予約は、去年の夏には終えていた。ところがあんまり早く予約を済ますと実際に出かけるまでの間がもたない。つい待ちきれなくて繋ぎの旅行計画を立ててしまった。それが1月のバンコクだった。

気がめいり、体調不良の時も、どこかへ出かけようと決めた途端、僕の心身は元気になる。これはもうお出かけ依存症かもしれない。加齢とともに精神をコントロールする力が弱くなるというし、困ったことだ。

何が僕をこうさせるのか。見知らぬ国へ行って、そこで暮らす人々の様子を見るのは、驚きや発見があってとても楽しい。こんな生活、こんな生き方もあるのか、と驚くことが多い。僕らが当たり前と思う日本の日常が、外から見ると異常な世界だと思い知らされる。

1月下旬にバンコクのんびり旅から帰国してみると、溜まった日常雑事の他に厄介な仕事が待っていた。去年処分した九州の古い家の後処理だ。役所への申請書など、つくづく面倒で憂鬱な作業が続いた。

さらに古くなった車とダウンしたパソコンの買い替えが続き、煩雑で楽しくない作業に追われた。新しいパソコンや車には、僕には無用の長物のお節介機能が満載され、ことあるごとに余計なお世話ををする。こんな愚にもつかない機能を増やすのは高値で売りたいメーカーの陰謀だ。

まあ、そんなことも過ぎてしまえばどうってことない話だ。ホーチミンの喧騒と熱気がそんなことをすっかり忘れさせてくれる。それより今回は、今までとちょっと趣向を変え、1800年代開業の、ホーチミンでも指折りの老舗ホテルを予約している。それが今度の楽しみのひとつ。

買い物に便利なドンコイ通りに面し、オペラハウスの隣という、人気の場所にホテルはあった。コロニアル風の白亜の4階立てのホテルは、周囲の高層ビルの中でひときわ異彩を放っている。これはなかなかいいではないか、今まで新しい機能的なホテルばかり探していたが、サイゴンと呼ばれた時代を彷彿とさせるこんなホテルもいい。

チェックインする時、フロントの若者に僕はいつものようにリクェストを並べた。高層階、眺めがよくて静かな部屋、禁煙、ツインベッド、バスタブとシャワーブース付の浴室等々、まくし立てると、若者は苦笑いしながらこういった。

「生憎当ホテルは4階建てにつき、高層階はございません。」

別に僕もすべてリクエスト通りになるとは期待していない。静かで快適に過ごせればいいのだ。僕はOK、ノープロブレムといいながら最後にもう一度念を押した。

「我々は二人とも70過ぎの老人だ。従って快適な睡眠だけは欠かせない。その点を考慮願いたい。」

しつこく迫る僕を、さすが若いながらも老舗ホテルのフロントマン、軽くかわして分かりました、とにこやかに答えた。そして案内してくれた部屋がちょとすごかった。

広々とした2階の角部屋、天井がとても高い。部屋の中央に2本の太い円柱が聳え立ち、壁際には重厚な造りの大型クローゼットが鎮座している。大きな扉を開けると手の届かない高さにハンガーが下がっているのが見えた。使い勝手はあまりよくなさそうだが、長い歴史にふさわしい風格のある部屋だ。

オペラハウス側の、広場に面した部屋なので車や行き交う人々のざわめきが時おり聞こえる。当ホテルで一番人気の部屋です、今夜だけですがよろしければどうぞ、手配してくれたフロントマンは僕らにそういった。僕らに異存はなかった。部屋は歴史相応に古びているが、浴室などの水回りは新しい設備に改修されている。

翌朝、チェックアウトの時フロントの彼に、気に入ったのでまた来た時も同じ部屋を頼むというと、次は4泊の予定なので無理だ、という。それもそうだろうな、あの部屋なら。

「著名なイギリス人作家、グレアム・グリーンが{静かなアメリカ人}を執筆する際に滞在した部屋。」

部屋の入り口脇のプレートにはこう書かれている。

僕らはここで1泊した後、ダラット、ホイアンを経て再びホーチミンに戻り、再びここで4泊する予定を組んでいる。残念だが彼のいう通り、この部屋での連泊は無理だろうな。僕らのようなミーハーも多いだろうし。

朝食のレストランもなかなかよかった。ビュッフェは室内に用意されているが、レストランは中庭にむかって開け放たれ、そのまま石畳を歩いて庭に出ることが出来る。庭は3方をふるさびたコロニアル風の宿泊棟に囲まれ、朝の光と爽やかな風が心地いい。

庭園のあちこちにプルメリアの古木が聳え、その下でとる朝食はとても楽しい。料理は通常のビュッフェだけど一段と食が進んだ。

しかしレストランのスタッフは感じが悪かった。特にマネージャークラスの態度は横柄で、僕らのような東洋系に対しては実に慇懃無礼だった。

似たようなことは、他のホテルでも、特に伝統ある老舗ホテルで多く見受けられる。これはベトナムの人々の心の底に、旧宗主国フランスへの憧憬あるいは畏敬の念が、まだ残っているためのようだ。

ベトナム戦で共に戦ったアメリカも、フランスに比べれば人気がないといわれる。少々気の毒な気もするが、アメリカは余計なお世話をし過ぎた。

それだけフランスの植民地経営が巧妙だったといえるが、それだけフランスの犯した罪が深かったということだろう。

だからベトナム人にとって、日本人など取るに足らない存在だろう。ある時僕は、他の老舗ホテルのフロントで、流ちょうなフランス語を操る女に嫌な思いをさせられた。

その女は、僕の後からやって来たフランス人家族を見るや、僕を無視したまま急に態度を変え、卑屈な笑みを浮かべながら彼らの相手を始めた。

この様なベトナムの人々の心情については「サイゴンのいちばん長い日」(近藤紘一著)にも詳しい。

まあ、海外に出ればこんなことはいくらでもある話で、僕らの知識や常識が世界で通用すると思ったら大間違いだ。このことを僕は旅する中で学んだ(続く)
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73 小笠原の旅(3)ザトウクジラの海
72 小笠原の旅(2)BONIN ISLANDS
71 小笠原の旅(1)波路はるかに
70 インド紀行(7)タージ・マハルの光と影
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65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
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4 憧れのフルム-ン法師の湯
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1 東北紅葉雪見風呂
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