1989年創立 個の出会いと交流の場 研究会インフォネット
HOME 研究会インフォネットとは 会員規約 お問い合わせ
会員専用ページ
過去のINFONET REPORT カレンダー 会員連載エッセイ なんでも掲示板
会員紹介 財務報告
会員連載エッセイ
最近の記事 以前の記事
やもめ日記
33 自然の力
2021年3月6日
シーラ・ジョンソン シーラ・ジョンソン [Sheila Johnson]

1937年、オランダのハーグに生まれるが、10歳のときからアメリカに在住。大学で人類学、大学院修士課程で英米文学を学び、人類学博士号を取得。高齢化問題や日本について書籍や記事を出版し、夫が創設した日本政策研究所の編集者を10年間務めた。チャルマーズ・ジョンソンが他界するまで彼と53年の結婚生活を続けた。現在サンディエゴ在住。
▲ 居間に置かれた病院用ベッドで毎日を過ごすようになった私。
 (訳者註:このエッセイを書き上げる1週間ほど前に、シーラは自宅でホスピスケアを受け始めました。ホスピスから提供された病院用ベッドを居間に置き、そこで毎日を過ごしています。)

Reading about the recent failure of the Texas energy grid during a serious cold-spell, I came across a quote by an Israeli philosopher. Mother Nature, he said, is the one major force in our lives that is totally independent of our will, and if you think you can control her “the slap in the face that she will give you will be heard all across the world.”

ちょっと前のことだが、大寒波のためにテキサスで配電網の機能が停止してしまった。そのことについて読んでいるとき、イスラエルの哲学者の言葉に突き当たった。母なる自然は、我々が生きて行く上で、我々の意志とは全く関係のない力で動き、それをコントロールしようなどと思ったら、平手打ちをくらうことになり、その音は世界中に鳴り響くだろう、というのだ。

This comment applies not only to climate change and the Corona Virus, although human beings are trying to mitigate the impact of both, but it applies equally well to our individual bodies. In the middle of the night, as I was thinking about the pain in my legs and trying to decide whether or not to take another pill, it occurred to me that the real problem I’m trying to solve is one of control over something that is, in the final analysis, independent of my will.

その格言は、人類が緩和しようと必死になっている地球温暖化やコロナウィールスの影響などだけでなく、私たち個人の身体についても当てはまる。真夜中に足の痛みがひどくなって薬をもう1錠飲もうかどうかと迷っているとき、自分が解決しようとしている本当の問題は、究極的には自分の意志ではどうにもならないことをコントロールしようとしているのだと、私は思い当たった。

As a quite healthy 84-year-old human being, I have of course been aware of my advancing age and the eventuality of dying. I monitored and tried to adapt to changes I observed and felt; for example, I began using a cane several years ago whenever my legs were painful or seemed unreliable. But what to do when my leg muscles suddenly quit communicating with my brain? People with ALS experience this process as it moves through their bodies, paralyzing their legs, stomachs, lungs, and throats. Some, such as Stephen Hawking, manage to stay alive with the help of various machines and strategies. Others call it quits at some point by stopping interventions or taking an overdose of drugs.

84歳にしては健康な人間として、私は年をとっていくこととやがては死んでいくことには勿論意識していた。自分で気が付き、また感じてもいた変化には注意していたし、それに適応もしてきた。例えば、数年前に足が痛くなり始め、弱ってきたころから私は杖を使い始めた。でも、足の筋肉が頭脳と突然繋がらなくなったらどうするか? 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の人には、足から胃、肺、喉、というように次第に麻痺していくという経過で問題が起こっていく。スティーブン•ホーキングのように様々な機械や対策で生き続けた人もいるし、ある時点で対策を取るのをやめたり、薬を多量に飲んで、生きることを止める人もいる。

This is the dilemma I now face. When my late husband was lying in bed, in hospice care, as I am now, he often cried out, “What should I do?” And I — assuming he was concerned about his work, the consuming passion of his life — would try to soothe him by saying “You don’t have to do anything.” I now believe that he was actually asking what his stance toward dying should be. Should he just relax, take whatever pills I and others were feeding him, and let nature take its course, or should he fight to live?

そういうジレンマに、私はいま直面している。亡夫が、いまの私のようにホスピスケアを受けて横たわっていたときに、「私はどうしたらいいんだ?」と何度も叫んだものだ。その度に私は、彼は一生情熱を注いできた仕事のことが気になっているのだろうと思って、「すべきことなんて何もないのよ」と言って慰めようとした。いま思うに、彼は死に対してどういう態度を取るべきかと聞いていたのだ。安らいで私や他の人が彼に渡す薬を飲み、そのまま自然に任せるべきか、それとも生き続けようと頑張るべきか、ということだ。

When I myself wonder whether to swallow or delay taking another pain pill, am I not really trying to prolong my control over the forces of nature? The nurse who will be supervising my care said that instead of the two-to-four oxycodone pills I’m currently taking I could switch to two time-release morphine pills. “But I hear that morphine makes one very sleepy,” I said. “Yes,” she admitted, “especially if you’re not used to it.” [Question: who in this life, except perhaps drug addicts or long-term cancer patients, has had a chance to become used to morphine?]

いま私が鎮痛剤を飲もうか、それとももうちょっと待とうかと迷っているとき、私は本当には自然の力に対するコントロールを持続しようとしているのだろうか。いま私のケアの責任を担っているナースは、私がいま2錠から4錠飲んでいるオクシコデン(鎮痛剤)を、遅延放出のモルヒネ2錠に変えてもいいと言った。「でも、モルヒネを飲むととっても眠くなるって聞きましたけど」と私が言うと、「そうです。特にモルヒネに慣れていなければね」と彼女は答えた。[ここで聞きたいのだが、ドラッグ常習者か末期癌患者でなければ、どんな人がモルヒネに慣れるチャンスがあるだろうか?]

Being in hospice care means that Medicare insurance will pay for my medical expenses for six months. After 6 months (and my care book contains a calendar showing exactly when that time is up) I should either be dead or I will be kicked out of the program. I can appeal that decision, and it cheers me to know that some famous people — like the humorist Art Buchwald in the U.S. and the British poet Clive James — beat that 6-months’ deadline several times over. But do I want to beat it and continue to prolong my life lying crippled in a hospital bed waited on by people I love? How long should I impose on their kindness and good will? These are the questions I’m asking myself, and for which I don’t as yet have an answer.

ホスピスケアを受けるということは、メディケア保険が私の医療費を6ヶ月払ってくれるということだ。6ヶ月が経ったら(私のケアブックにある暦には期限が切れる日がはっきり書いてある)、私は死んでいるか、ホスピスケアから外されるかのどちらかだ。継続してくれるように申請することは可能だ。有名な人たちの中にはーー例えばアメリカのユーモリスト のアート•バクワルドやイギリスの詩人クライブ•ジェームズのようにーー6ヶ月期限を何度も更新したものだ。でも、私は更新して、動けない身で病院用ベッドに横たわったまま、愛する人々の世話になりながら生き延びたいのだろうか? どのくらい人々の好意や善意に寄り掛かり続けていいものなのか? こういうことをいま自分に問いかけているところなのだが、まだ答えは出ていない。


(訳:雨宮和子)

[訳者註1]メディケアとは、アメリカ連邦政府が管轄している高齢者および障害者向けの医療保険制度のこと。

[訳者註2〕ホスピスについては、いまからちょうど10年と1ヶ月前に掲載されたシーラのエッセイ第1回目に細かく説明されています。
最近の記事 ページトップへ 以前の記事
ボーダーを越えて
雨宮 和子
葉山日記
中山 俊明
寄り道まわり道
吉田 美智枝
僕の偏見紀行
時津 寿之
ぴくせる日記
橋場 恵梨香
縁の下のバイオリン弾き
西村 万里
やもめ日記
シーラ・ジョンソン
ガルテン〜私の庭物語
原田 美佳
バックナンバー一覧
34 さようなら
33 自然の力
32 新しい年が始まる
31 2021年に向けて
30 異常発生年誌
29 みんなへの頌歌
28 世間から遠くなっていく存在
27 青いバナナはもういらない
26 2019年の始めに
25 改善された私の目
24 Looking Ahead 新年に向けて
23 チャルマーズ・ジョンソンと沖縄
22 ジョン(下)
21 ジョン(上)
20 ポリー
19 さらば、オランダ
18 いとこのハンス ―その後(2)
17 いとこのハンス − その後(1)
16 いとこのハンス
15 子どもを持たなかった理由
14 口を開く前に…
13 猫になったのかもしれない私
12 猫と人間
11 ヨコハマ・ヤンキー
10 前を向くか、後ろを向くか
9 アリゾナ展望
8 旧知の仲
7 愛した猫たち(下)
6 愛した猫たち(上)
5 フクシマとサンオノフレ
4 日本語ができない私
3 吉祥寺 ― 1961年と50年後
2 チャルのベンチ
1 死を迎えるためのビジネス
ページトップへ
Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved. Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等、全てのコンテンツの無断転載・複写を禁じます。
1 2 4 5 9 3 9 4
昨日の訪問者数0 4 8 1 5 本日の現在までの訪問者数0 0 6 6 3