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僕の偏見紀行
245 神々の棲む島(2)セミニャックの日々
2018年12月8日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ワルンでご馳走を前にして。二人で約700円程だった。
▲ 顔見知りになったウエイター君。陽気で楽しい若者だった。
▲ 夕暮れ時のセミニャックの浜辺
ホテルに落ち着くと僕らは周辺の探訪に出かけた。ここには4日ほど滞在する。僕には旅先で快適に滞在するための必要条件がある。まずホテル周辺にランドリーショップと手軽な地元食堂、そして水が買える店があれば充分だ。

ホテル玄関前に立って通りの向こうを見たらコンビニが見えた。コンビニは両替ショップが併設されているようだ。これは幸先がいいと思ったら、さらにその脇にランドリーの小さな看板が見えた。

早速行ってみるとコンビニ隣の倉庫の片隅に受付があり、簡単な台秤が土間に置いてある。声をかけると出て来たのは東洋系の中年女性、長い髪を無造作に後ろで束ね、かなり日焼けしている。

尋ねると日本人という。どんないきさつでバリでランドリーをやっているのだろうか。しかし余計な詮索はしないことにした。料金はリーズナブルなアジア相場だった。

ついでに周辺情報を尋ねると、親切に教えてくれた。聞きたかった食堂は、大通りから脇道へ入ったホテルの裏手にあるらしい。なんでも揃って便利なスーパーマーケットも大通り沿いにあるという。ホテルの所在地がいいようだ。これで僕らは滞在中日常生活に困らない。

ホテルの部屋はとにかく広く、キッチン付きのリビングの隣に寝室がありその奥がバスルームだった。プールを見下ろすバルコニーの片隅には寝椅子が置いてある。部屋が広いのはいいが、欧米人用なのか万事サイズがでかく、僕らにはすべてが大きすぎた。

特に巨大なバスタブには閉口した。湯につかって足を伸ばしても足が向かう側に届かない。お尻が滑るとあわや溺死ということになりかねない。また丈が高く、縁の幅が広すぎて僕には一跨ぎで中へ入ることが難しかった。

仕方なく一旦縁の上に座り、身体を回転させながら片足ずつ入れるという面倒な手順で入った。しかしこれは簡単ではなく多少のコツがいった。下手すると坂本龍馬が、彼の身を案ずる姉への手紙に書いた恐ろしい事態を招く危険があった。

 「世の中には、風呂に入ろうとして風呂の縁でキン玉を詰め割って死ぬような運の悪い人もいる・・・」
            「竜馬が行く」司馬遼太郎著

上記はかなり昔に読んだもので記憶が曖昧であり、恐縮ながら文章は正確さを欠きます。

人間いつどこで、どんなことで死ぬか分からない、死ぬ時には死ぬ、先のことを思い煩っても仕方ない、だからあまり心配してくれるな、と彼は仲の良かった姉に伝えたかったのだろう。

これは彼の姉への思いやりであり、幕末の修羅場で己の大義に生きる覚悟だったと思う。それを少々品の無いユーモラスなたとえ話に託したのだ。僕は初めて読んだ時、人の生き死にをいとも簡単に笑い飛ばす彼の剛毅で大らかな精神に共感した。

苦労の末、ようやくバスタブ一杯に張ったお湯につかることが出来た。あふれるお湯を気にも留めず僕は湯の中で手足を伸ばす。長時間移動の後のこの瞬間はちょっといいものだ。ところが最後にシャワーを浴びていたら、急にお湯が冷たくなってきた。これはやばい、お湯が切れたか、僕はあちこちで経験した悪夢を思い出した。

著名な観光地のホテルだから大丈夫だろう、と思ったのが甘かった。後でやって来たサービス係の若者によると、ボイラーの能力は15分の連続使用が限界で、その後は1時間のインターバルが必要だという。言われてみればどこでもあることで、分かっていたつもりが油断してしまった。

僕らは日頃から、お湯や水を文字通り湯水のごとく使う。飲料水をトイレに流し、洗濯にも使う。しかしそんな国はこの世に少ない。五つ星の高級ホテルは別として、使えるお湯の量に限界があったり、あるいはシャワーだけというホテルも多い。

水しか出ないホテルだってあちこちにある。アジア各国を歩くと、一日の終わりに川で水浴びをする光景に出会うことがある。緑の中で風に吹かれ、見ていていかにも心地よさそうだ。暑い国ならこれが一番自然で気持ちいいに違いない。

サービスの若者は警備を兼ねているのか、逞しい身体に精悍な目つきをしていた。彼はお湯の使い方を説明しながら、このジャパニーズは何にも知らずにやってきて気楽なもんだ、などと考えただろう。

ぬるま湯の国ニッポン、国民も政府ものほほんと外から見れば異常としか思えない生き方を続けている。美しい山や森を破壊して無用なダムを建設、せっかく恵まれた豊富な水を汚してきた。我が国でこの様な無用の工事が無かったなら、今でもそのまま飲み水になる川がたくさんあるはずだ。

ランドリーで教わった食堂、地元の人が利用するというワルン(WARUNG)、はホテルの裏口を出てすぐのところにあった。大通りから海岸へ向かう道路に面した食堂は多くの観光客で賑わっていた。ワルンといっても地元の人々より観光客の方が多かった。オーストラリアからの客が多いという。

店頭に置かれたショーケースに、肉や魚そして野菜などの料理が並んでいた。フライや煮付けが多いようだが、これがバリの家庭の味なのか。客は食べたいものを指して注文する。席で待っていると紙を敷いたザルに盛られた料理が運ばれてくる。

ウエイターはアイソがよくて元気のいい若者、なまりの強い英語を話した。片言の英語でやり取りすると注文のやり方や食べ方を教えてくれた。料理はどこかネパールを思わせ、少々油がきつかったが、白いご飯と一緒に食べると素朴な味わいが美味しかった。

感心したのは、料理ごとにカードが付いてくるのだ。カードには料理名と料金が記されているので、支払い時にはそのカードを見せればいい。これだと言葉が通じなくてもスムーズに支払いが出来る。

料金も手ごろだし、あれこれ選んで注文するのも楽しかった。滞在中何度も通ったのでウエイターの若者と顔見知りになった。旅先のこんな出会いはとても嬉しい。しかし最後の日に別れを言うのが辛い。

ワルン前の通りをさらに歩くと数分で海岸に着いた。クタのビーチから続く白い砂浜が広がっている。ここセミニャックのビーチも人気があり、週末など道路が車で渋滞する程だ。

ある夕暮れ時の道端で手旗を振る若者がいた。何をしているかと思ったら、海岸へ向かう道路に脇道から進入してくる車の整理係だった。狭い道路を沢山の車が一斉に海岸へ向かうためほっておくと収拾がつかなくなるらしい。

しかし信号がないから手旗信号でやるとは、いかにもバリ島らしくて面白かった。しかし係の若者は蒸し暑い夕暮れ時に大変だったと思う。

海岸へ出ると人々が散歩したり、輪になってビールを飲んだりして楽しんでいた。砂浜をイヌと散歩する人たちもいた。夕暮れ時の浜は、刻々と雲と空の色が変化し、見飽きることが無かった。やがて空が暗くなり、わずかに太陽が沈んだあたりに陽の名残りが見えた。(続く)
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81 シルクロードの旅(4)ブハラへの道
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72 小笠原の旅(2)BONIN ISLANDS
71 小笠原の旅(1)波路はるかに
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68 インド紀行(5)夜行寝台「ハウラー・カルカ・メイル・2311号」
67 インド紀行(4)ダージリン滞在
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65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
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56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
46 秋空の下、いくつかの再会
45 白神の森の宝
44 挑戦!乗鞍岳
43 北東北ローカル線の旅 (4)津軽じょんがらの夜はふけて
42 北東北ローカル線の旅(3) 雨の下北恐山
41 北東北ローカル線の旅(2) うみねこレール
40 北東北ローカル線の旅(1) 春のうららのドリームライン
39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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