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166 京都名刹めぐり その30 梨木神社 Part 2
2016年2月14日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。
そもそも、なぜ私が京都などという遠隔地のマンションのあれこれに興味を持ったのかと言いますと、このマンション(正式名は、イーグルコート 京都御所東 梨木の杜 というのだそうです)の販売用パンフレットが(明らかに何かの間違いで!)、私のところに送られてきたことが、きっかけだったのです。

だいたい、こんなモノを買うお金はもちろんのこと、その気も微塵もない私のような者に、どうしてパンフレットが届いたのか、今でも不思議なのですが、場所が場所だけに、好奇心だけは呼び起こされました。

それで昨年、京都に行く用事があったついでに現場に赴くことになったのですが、いやいや、たしかにいろいろなことがあったようでした。でもとにかく、現場では建築工事が進んでおり、今のところ、2016年3月竣工、7月上旬に入居開始予定なのだそうです。

販売用パンフレットには、このマンションの詳細は以下のように書かれていました。

構造・規模 鉄筋コンクリート造、地上3階建
     (建築基準法上、地上2階・地下1階建)
総戸数 33戸
販売戸数 33戸
間取り 3LDK・4LDK

権利形態

 ー效麓擴繁‖茖横仮鬚砲茲訥蟯借地権(地上権)
 土地所有者: 梨木神社
 借地の存続期間: 引渡し日から60年間。
 ぜ效亘了後に更地返還。
 シ物の買取り請求、契約更新及び改築等による期間延長不可。

つまり、このマンションは分譲タイプなのですが、土地は定期借地権による借地でして、60年後には購入者の一切の所有権が消滅し、更地にして土地を梨木神社に返還するという契約形態なのです。そしてイ砲△蠅泙垢茲Δ法⊆效聾契約終了時の建物の買取請求、契約更新、改築等による借地契約の延長は不可ということです。つまり買うのは地上権だけでして、土地は60年間限りの借地なのです。そして買った地上権も借地返還時には消滅し、更新はあり得ないという次第です。

マンション等の共同住宅にご縁がある方は、よくご存じだと思いますが、マンションを所有すると、固定資産税はもちろんですが、それに加えて必ず、「管理費」と「修繕積立金」も支払わなければなりません。でもこの場合は、それにプラスして「解体準備金」と「地代」も必要なのです。ここの場合は、それらの金額は当面、以下の通りでした。

管理費(月額)
21,870円〜25,420円

修繕積立金(月額)
4,950円〜5,760円

解体準備金(月額)
2,760円〜3,210円

地代(月額)
19,900円〜23,130円

ざっと見て、月額合計5万円〜6万円弱というところです。さらに、入居者は使用部分の固定資産税を支払うことになります。

このマンションのそもそもの発端は梨木神社が、2011年、老朽化した築130年ほどの本殿や拝殿などを約1億3千万円かけて改修し、さらに社務所や能舞台などの改修も予定していたのですが、それをまかなう寄付が集まらなかったということなのだそうです。

それで困った役員会と宮司さんが絞り出した案が、定期借地権による不動産賃貸ということだったのだそうです。

「安定的に60年間地代が入り、神社の維持運営ができて、それが一番いいんじゃないかという役員会の判断でそうなった」(梨木神社の宮司)

まあ、神社を維持・運営する人達にすれば、やむを得ない選択だったと言えるようにも思えます。

ところが、場所が京都市という厳しい景観条例を持った自治体だったというだけではなくて、その京都市の中でも特別な地域だっただけに、さすがにかなりの騒動が持ち上がりました。

まず、京都市議会は、京都御苑周辺の環境保全に関する意見書(2013年10月2日提出)で、こんな決議をしています。

「今般,京都御苑東側の梨木神社敷地においてマンションの建築計画があることが明らかになり、京都市民に戸惑いが広がっている。よって京都市は、マンション建設については計画の中止も含め事業者と十分協議を行い、解決を図るべくあらゆる努力を行うこと。」

しかし、現行の法律下では京都市にできることには限界があったようで、「法令上の問題は特にない。景観を損ねないよう業者と協議する。」ということで、結局のところ、「決議を重く受け止めた」神社側の自主的な判断で、規模の若干の縮小が着地点だったのだそうです。

具体的には、マンションの最高部の高さを13メートルから10メートル程度に設計変更したのだそうですが、もっと具体的に言いますと、本来3階建だった建物を、半地下を作ることにより、地上2階、地下1階に変更したとのこと。結果的に3階建には変わらなかったのです。何やら知恵を総動員して手直しした形跡のように思えます。

マンション分譲業者にすれば、販売戸数が減ることはなんとしても避けたいことだったでしょうから、ずいぶん考えた結果なのでしょう。でもまだ他にも問題がありました。

実は梨木神社は従来、全国の神社統括組織である神社本庁(東京都)に所属していたのですが、このマンション建設計画を検討する段階で、本庁側に計画を伝えたところ、マンションが参道上に建設され、しかも御所に近いという理由で承認を得られなかったのです。そこで困った梨木神社側は、なんと同庁を離脱してしまったのです。

これもなかなか勇気が要ることだったと思いますが、調べてみますと、神社本庁に属していない神社は、けっこう多いようです。そもそも神社本庁は全国最大の神社統括組織ではあるのですが、唯一の組織というわけではなく、他団体に属している神社もあります。また、統括団体への加盟・離脱は各神社の選択で自由に決めることなのだそうで、有力社・古社・地域の中小神社にも、神社本庁の傘下に属さない神社=単立神社が、かなりの比率で存在しているのだそうです。

ということで、単立神社となった梨木神社は、意を決してマンション建設にゴーサインを出したという次第です。上段の写真はこのマンションの完成予想図です。それにしても、すごい場所だと思います。建物の南側(写真で見ると左手前側)に隣接して、梨木神社の「一の鳥居」がそびえているのが、おわかりいただけると思います。

下段の写真はマンションの東側、寺町通り側から見た完成予想図です。1階部分が半地下なのだそうですが、これを見る限り、普通の3階建に見えますね。

勿論、ネット上でも、「梨木神社 マンション」で検索してみますと、かなりの書き込みがありました。歴史的に見ても鋭い眼を持っておられる人が多かった京都のことですから、議論百出状態でした。

私もこれを書くに際しまして、それらをざっと一覧したのですが、私見ですが、代表的な結論は以下のようなものでした。

<意見 1>

京都御苑のことを、京都人は御所って呼んでいますが、その御所の東隣で、いわば御所の続きのような場所にある梨木神社。その境内にマンションが建設されるというのは、改修に対する寄進が集まらないために致し方ないとはいえ、残念な気がしますね。

逆にそのマンションに住まれる方は、すごい一等地なのかもしれませんね。真横が京都御苑内の京都迎賓館なのですから。

賛成の人はいないでしょう。私も反対。が、具体的な対案は何も無し。現実として仕方がないのでは。


<意見 2>

〇定期借地権物件なので転売に苦労しそう。
〇小規模なので、管理費・修繕費が高くなる。
〇管理費・修繕費の上に、解体費、地代がかかる。
〇電車駅(それも京阪の終点)から12〜3分はかかりそう。地下鉄も同じくらい。
〇出町商店街はよい商店街だが、駅と同じぐらいの時間がかかる。
〇角戸以外は、東西のどちらが開口部なので、日当たりは午前中か午後のみ。
〇夜は外が暗い。
〇居住用に購入しても、非居住者が多いだろうから、管理組合の役員がすぐにまわってきそう。
〇ローンで購入する物件ではなく、購入後の維持費も考えれば、お金持ち(しかも60年間ずっと金持ちである人)のセカンドハウスとしか考えられない。

なーるほどなあ、と完全な無責任部外者の私は複雑な思いで、あらためてパンフレットを見直した次第です。いずれにしても、既に工事はかなり進んでおり、今年7月には入居開始だそうです。

私達はこれからも時々、京都には出かけますので、今後の推移を見守ろうと思いますが、これをお読みのあなたは、もしもお金があったら、このマンションを買ってもいいと思われますか?

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