1989年創立 個の出会いと交流の場 研究会インフォネット
HOME 研究会インフォネットとは 会員規約 お問い合わせ
会員専用ページ
過去のINFONET REPORT カレンダー 会員連載エッセイ なんでも掲示板
会員紹介 財務報告
会員連載エッセイ
以前の記事
かくてありけり
67 「マイグレーション」鰻とCDの共通項とは
2018年1月1日
沼田 清 沼田 清 [ぬまた きよし]

1948年、新潟県生まれ。千葉大学工学部卒業。2008年、通信社写真部を卒業、以後は資料写真セクションで嘱託として古い写真の掘り起こしと点検に従事。勤務の傍ら個人的に災害写真史を調べ、現在は明治三陸津波の写真の解明に努めている。仕事を離れては日曜菜園で気分転換を図っている。
マイグレーション(migration)という言葉をご存知だろうか?今回はこの言葉との巡り合いについて語りたい。

約10年前、現役時代の最終コーナーは、資料写真セクションで古い写真の保存・管理と、有効利用のための写真データベースの登録、運用・管理に従事していた。
写真の歴史は1827年、ニエプスのアスファルトを感光材に使った発明に始まり、1839年に銀板写真(ダゲレオタイプ)が実用化され、以後、湿板、乾板、フィルムそしてプリント印画のアナログ時代が続いた。それが1990年代後半にデジタル写真時代を迎え、カメラはデジカメに切り替わり、我が職場の資料写真も、電子ファイルでの保存管理へ移行の真っ最中であった。

そんな中、写真を保存するCD(コンパクトディスク)の劣化問題が発生し、大騒ぎとなった。納品されたCDの一部に不良品があったためだった。結果的に被害は最小限度で済んだが、一時は全体への波及を考えて前途真っ暗の思いに襲われた。
その対策で来てもらった専門家の口から度々出た言葉が「マイグレーション」であった。

アナログの写真システムは前述のように約180年の歴史があり、昔の写真が今に残っていることが保存性の証明になっている。劣化するにしても速度は緩やかで、対処できる。それに引き替え、電子データはその保存媒体も含め、経年変化の実証は十分ではなく、ある日突然にデータが壊れたり、引き出せなくなる危険性がある。それを扱う機器やソフトの改廃もある。

ではどうしたらよいのか?専門家が言うのは、保存媒体の保証期限以内に別媒体にデータを移行すること。マイグレーションとは「データ移行」を意味するIT用語であった。
「CDやDVDなら20年に1回はマイグレーションしなさい。3回やれば100年保ちます」と。これを常識として対応しなくてはならないが、言うは易く実行はなかなか難しいと思った。

この「マイグレーション」、どこか聞き覚えのある言葉と思い、手元にある小学館プログレッシブ英和中辞典(1998年1月発行)を引いたら「人の移動、鳥の渡り、魚の回遊」と記してあった。
そうだった、高校の英語の授業で、鰻に関する科学記事があったんだっけ。鰻の生態の謎に関するトピックで、鮭や鰻の回遊性について言及していたのを思い出した。何と40年ぶりの再会であった。migrationの言葉が、私の人生で文字通り“回遊”して帰ってきたわけで、当時の授業の様子やら級友の顔まで浮かんで懐かしい思いに浸った。

migrationの祖形は動詞のmigrateで、そこから派生したemigrateは出国する、 immigrateは入国するの意味である。名詞のimmigrationは入国や入国管理の意味で、業界では短く「イミグレ」と呼んでいたが、今では一般にも通用している。しかし「データ移行」の意味はこの辞書に載っていない。一般的には2000年台になってから普及したのではないだろうか。
ネットの辞書「英辞郎」には、一番手に「(人や動物の)移住、渡り、回遊」を挙げ、六番手にコンピュータ用語として「(別の環境・バージョンなどへの)移行、乗り換え」としている。

言葉は変化するとはよく言われるが、高校の頃には思いもよらなかった科学技術の進歩で、新しい用法が誕生したわけだ。

ちなみに高校の授業では謎とされていた鰻の回遊について、現在は解明が進み、日本の研究者チームにより「産卵場は太平洋のマリアナ海域」とまで絞られて来た。
鰻は稚魚のシラスウナギを獲って養殖することで供給される。完全養殖はまだ実験段階だ。シラスウナギが少なくなって、鰻の値段も高騰し、大好物ではあるが、そう頻繁に食せなくなってきた。時々ランチを食べに行った新橋の鰻屋も、値上がりして福沢諭吉2枚ともなると自然に足が遠のき、気づいたら、閉店していた。

マイグレーションについて来し方と現状について思いをめぐらしていたら、ふと脳裏に浮かんだのは、お伊勢さんであった。そう、日本にも昔からあったのだ。エッセイの第54話で紹介した伊勢神宮の式年遷宮である。
20年に一度行われる外宮と内宮の神殿の造営は、以前とそっくり同じものを隣の敷地に新規で造るものである。神殿だけでなく、そこに納める装束、神宝、さらには周辺の末社、橋も新調される。大層な費用(2013年実績で550億円という)と手間をかけ、文化を継承する。それが1300年にわたって行われてきた。これこそ究極のマイグレーションではないかとしみじみと感じ入った。
ページトップへ 以前の記事
ボーダーを越えて
雨宮 和子
かくてありけり
沼田 清
葉山日記
中山 俊明
寄り道まわり道
吉田 美智枝
僕の偏見紀行
時津 寿之
NEW
ぴくせる日記
橋場 恵梨香
縁の下のバイオリン弾き
西村 万里
やもめ日記
シーラ・ジョンソン
NEW
きょう一日を穏やかに
永島 さくら
ガルテン〜私の庭物語
原田 美佳
バックナンバー一覧
67 「マイグレーション」鰻とCDの共通項とは
66 追悼−西永奨さん
65 ご破算で願いましては−14回目の引っ越し
64 続・原爆を撮った男
63 再び・硫黄島の星条旗
62 日曜農園から 「農閑期」
61 富士山頂の星条旗−古写真探偵が行く
60 日曜農園から(4) 「収穫祭」
59 日曜農園から(3) 会計担当
58 日曜農園から(2)−農事暦
57 日曜農園から(1)
56 「トリアージ」再び
55 刷り込み
54 遷宮の撮影
53 定点観測
52 解約返戻金
51 仰げば尊し
50 在宅勤務
49 睡眠時無呼吸症候群
48 映画館今昔(補遺)
47 映画館今昔(下)
46 映画館今昔(上)
45 原爆を撮った男
44 標準温度計
43 続・硫黄島の星条旗
42 knot=結び目
41 硫黄島の星条旗
40 五十嵐君のこと
39 ホケマクイ
38 百科事典
37 白魔
36 私は嘘を申しません
35 再び転勤
34 高所作業車
33 撮影時間の怪
32 色再現
31 空き缶回収の主役
30 続・ビルの谷間に蝶
29 代表撮影
28 人名用漢字
27 ビルの谷間に蝶
26 ホウレンソウに虫
25 残酷でも放送して!
24 人力飛行機
23 ペーパーレス
22 接触を拒否する企業サイト
21 今様1K住宅事情
20 credibility=信憑性
19 超小型走査電子顕微鏡に賭けた二人の男(下)
18 超小型走査電子顕微鏡に賭けた二人の男(上)
17 クレジットの怪
16 遺体写真
15 親密な見知らぬ他人=Intimate Stranger
14 走査型電子顕微鏡写真
13 気送管
12 カメラ付き携帯電話
11 続・合成写真
10 合成写真
9 帰還不能点
8 藤子不二雄の先見性
7 図書館は今
6 裏焼き
5 デジタルカメラ
4 Made in occupied Japan
3 トリアージ=負傷者選別
2 怖い夢
1 亡命
ページトップへ
Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved. Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等、全てのコンテンツの無断転載・複写を禁じます。
0 8 0 3 8 7 0 8
昨日の訪問者数0 6 5 0 2 本日の現在までの訪問者数0 2 4 6 4