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縁の下のバイオリン弾き
192 惜別の辞
2021年12月1日
西村 万里 西村 万里 [にしむら・まさと]

1948年東京生まれ。大学で中国文学を専攻したあと香港に6年半くらし、そのあとはアメリカに住んでいる。2012年に27年間日本語を教えたカリフォルニア大学サンディエゴ校を退職。趣味はアイルランドの民族音楽 (ヴァイオリンをひく)と水彩画を描くこと。妻のリンダと旅行するのが最大のよろこび。
▲ 太平洋に落ちる夕日。この海の向こうは日本だ。
早いもので、2010年の11月1日に「カナダロッキーへの旅」をアップロードしてから満11年が経った。最初の頃は月2回、現在は月1回のペースでブログを維持してきた。

私はそもそもコンピューターに弱く、自分でブログを書こうなどとは思ったこともなかった。その私をインフォネットに推薦してくださったのは会員の雨宮さんであった。管理人の中山さんは寛大にも私の執筆を許してくださった。お二人には深甚(しんじん)の感謝を捧げたい。

また私にはそれまで他人のブログを読むという習慣がなく、読んだことがあるのはひとえにインフォネットに掲載された会員の皆さんの文章だけだった。見様見真似で始めたのだった。

しかし書き始めてみると、私は文章を書くのがとても楽しくなった。もともと中学生の頃から日記を書いていて、その意味ではほとんど一生を通じて「書く」ということに親しんできたのであったが、それはあくまで私自身のためだった。将来の私が読み返すことを前提として書いていた。そのはずだったんだけど、歳を経(へ)るにしたがって、その目的があやふやになってきた。

「将来の私」が長い年月に渡って生きているならよい。日記を読み返す時間もふんだんにあるだろう。読み返して過去を懐かしむのは楽しいだろうし、できればそこから何らかの指針を得ることも全くありえないことではない。

しかし60歳を過ぎてみると、これはどう考えたって「余生」である。おまけの人生である。その頃には私は毎日日記をつけることはやめてしまって、折にふれての随想を書くようになっていたが、それでも日記はどんどんたまっていく。それなのに、それを読み返す時間は減っていくばかりだ。

これはむなしい、と思った。文章というものは、それを読むのが自分ただ一人であっても、読者を想定しないでは書けない。そのただ一人があと2年ぐらいしたら寿命が尽きて消えてしまうかもしれないのでは張り合いがないではないか。

というわけでブログを書くことはその張り合いを何重にも重ねて増やしてくれるものだと発見したのである。読んでくださる方には私の感謝をあらわす言葉もない。

そのようにしてブログを始めたのだったが、私はその最初にある方針を立てた。文章を書く上で、私は自分自身の書き方しかできない。だから、現代に人気のあるような文章は書くまい、ということだった。もちろんやろうと思ってもできるはずはないのだが、たとえできたとしてもそれは自分を表すものではなく、付け焼き刃にしか過ぎないものだろう。

私は60歳を過ぎた外国に住む日本人男性としてできるだけ自分に正直に、誰にもわかるような文章が書きたかった。それが成功しているかどうかは私の問うところではない。ただ私がいつも読者として想定していたのは自分と同じぐらいの年代の人であった。若い人に受け入れられたらそれは望外のしあわせというものだった。

また私の文章は長すぎるという批判も受けた。それは1センテンスが長すぎるという意味ではなく、ブログ全体が長すぎる、ということだった。ブログを書き出してからいくらもたたないうちに私のブログは長くなったから、この批判は正しい。

ブログがどういうものか知っていたらそんなことにはならなかったに違いない。世のブログというものはその概念からして短いものであるらしいのである。しかし私は付け焼き刃を排したのと同じように、自分の書きたいことを思ったように書くことを選んだ。のちには4500字内外と自分で制限を設けたのだったが、これに特に理由があったわけではない。400字詰めの原稿用紙にして11枚ちょっとだ。そのぐらいがちょうどいいと考えたわけだ。

そういうわけでブログの概念からは随分へだたったものになってしまったかもしれないが、これを読んでくれる人がいると考えるのははげみになった。インターネットの常で私のブログが全然目的ではないのに、偶然そこに来てしまった、という読者もたくさんおられたことと思う。だからいわゆるpv(ページ・ヴュー)はかなり割引して考えなければならない。でもつまらないものを書くとてきめんにpvの数が減るところを見るとpvというものが雲をつかむような当てずっぽうではないことにだけは心しないわけにはいかない(これはその月の執筆者が私だけだった場合のことです)。

今年の1月1日に管理人の中山さんが「さてこの研究会インフォネットですが、もう一年活動継続することになりました」と書いておられる。その一年が過ぎようとしている。これでお別れである。

私は10年ブログを書いてきて、実に楽しかった。ありがたかった。でもまだまだ書き尽くしたと感じてはいない。コンピューターに強い頭があれば、もっと早くから手を尽くして引っ越し先を探しておくべきだったんだけれど、私はいつものように何もせず、結局今日という日を迎えてしまった。

それはなぜかというと私は過去のブログ全体をまとめて引っ越したいと考えていて、そのやり方を探したのであったが、どうあがいてもやり方がわからなかったのであった。

そこで私は引っ越しをあきらめ、新しい天地で新たにブログを始めることにした。ライブドアというサイトで鶴首堂(Kakushudo)というアカウントを作った。でもまだ何も書いていない。

来年になったら、皆さんにまたネット上でお目にかかりたいと思っております。長いことありがとうございました。さようなら。
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