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ボーダーを越えて
202 月面着陸以後の50年
2019年7月27日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ ニューヨークタイムズの今年7月20日の1面を、50年前に月に踏み入れた人間の第一歩の写真が飾った。
人類が初めて月面着陸してから、今年で50年。アメリカの各テレビ局はアポロ11号の月面着陸に関する番組を2週間もどんどん放送しました。 

我が連れ合いはそのときはたまたまイギリスの実家に帰っていて、普段はクールな父親が「これは人類にとって史上最高の業績だ」と言って、真剣な顔でテレビの画面に吸い込まれるように月面着陸の中継に見入っていたのがおかしかったと覚えているそうです。アメリカ人の友人たちも皆、家族全員がテレビの前に座って中継を見たと言います。私も中継を見たのですけど、当時の私は、アメリカといえばベトナム戦争のことがすぐ頭に浮かんで、テレビの画面に、宇宙服を着たアメリカ人が月の表面をピョコン、ピョコンと跳ぶような感じで歩いているのを見て、「へ〜っ」と思っただけで、それ以上の感慨はありませんでした。経済的にも軍事的にも世界で最も強力なアメリカがベトナムという小国に膨大な数の爆弾を落としていることと、月に人間を送り込むという一見平和なこととが、どうも私の頭の中では結びつかなかったような気がします。それと、当時の私は、東南アジアに興味があって、アメリカそのものに全く関心がありませんでした。

それから2年後、全くひょんなことから日本を離れて1年半ほどシンガポールと香港に暮らし、そしてまたひょんなことから1973年2月末にアメリカにやって来ました。そのときたまたまウォーターゲート事件が大問題になっていて、その究明のために連邦議会上院に設置された特別委員会が5月に聴聞会を開き、それが毎日長時間テレビ中継されました。それでテレビに釘付けになった私は、大統領でも法の上に立つものではないという原則を守ろうと徹底的に追及するアメリカの民主主義をはっきりと見せられて、すっかり感心したものです。首相に何か問題があれば、うやむやのまま、辞任という形で片付けて蓋をしてしまう日本とは大違い。来たくて来たアメリカではなかったのですが、あのときにアメリカに来て、ほんとうによかったと思います。

でも、それからのアメリカには失望の連続となりました。ウォーターゲート事件究明当時のアメリカは、その民主主義の最頂点に立っていたのでしょうか。1980年代半ばに起きたイラン・コントラ事件(レーガン政権がイランと裏取引で武器を売り、その売却金を秘密裏にニカラグアの反共ゲリラ「コントラ」に横流しした事件)は、ウォーターゲート事件よりもっともっと深刻なはずなのに、その追求は生ぬるくて、私はびっくり、失望。そして9・11事件以後は、連邦議会は自らの権限を放棄して大統領に全てを委ねてしまい、大統領は右翼と石油産業の利益追及に操られて、ブッシュはアメリカ史上最悪の大統領とまで言われ、私もそう思いましたし、アメリカの民主主義の危うさも感じたのです。そんな共和党政権に辟易したアメリカ市民はオバマを選んだので、ホッとしたものの、その反動のように、アメリカはトランプを大統領にしてしまった。トランプと比べたら、史上最悪の大統領と言われたブッシュが常識のある思慮深い人物に見えるのですから、皮肉なものです。

そうしていま、50年前の月面着陸に至る経過をテレビで見ていて、アメリカは月に人類を1960年代のうちに到着させるのだと断言したケネディの背景には、宇宙開発の出発点でソ連に先を越されたアメリカの冷戦戦略が思い起こされました。冷戦真っ只中のアメリカは、一方ではベトナム戦争に、一方では月面着陸に関してソ連との競争に、精力をかけたのだということを、当時の白黒画面に映し出されたケネディを見ていて、私は改めて考えさせられました。

若い頃の私だったら、そんなアメリカの宇宙計画にもケネディにも、フンと思って頭の中で切り捨てたかもしれません。でも、大嘘付きのトランプに政治が牛耳られているいまのアメリカの中にいる私は、冷戦の中で大きな制約付きではあっても、一段高い理念をもとに演説するケネディを見て、少なくとも大統領はあのようにあってほしいと思わずにいられませんでした。

人類最初の月面着陸から50年後のアメリカは、まさに地に落ちたものです。
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115 しあわせな1日
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108 イタリアの修道僧
107 3年ぶりの日本
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105 キューバ:バラコア
104 キューバ:甘い歴史の苦い思い出
103 キューバ:2つの通貨
102 キューバ:近過ぎて遠い国
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100 ホンジュラス(19)シエンプレ・ウニードス
99 ホンジュラス(18)ガリフナ放送
98 あと1年、だったら
97 無信仰者のクリスマス
96 ホンジュラス(17)ガリフナ
95 ホンジュラス(16)バナナ共和国
94 ホンジュラス(15)マヤ文明の跡
93 ホンジュラス(14)牢獄の中と外
92 ホンジュラス(13)先住民の女性たち
91 ホンジュラス(12)一番安全な町
90 ホンジュラス(11)オランチョの森(下)
89 ホンジュラス(10)オランチョの森(上)
88 金鉱の陰で(追記)カリフォルニアで
87 ホンジュラス(9)金鉱の陰で(下)
86 ホンジュラス(8)金鉱の陰で (中)
85 ホンジュラス(7)金鉱の陰で (上)
84 ホンジュラス(6)原則に沿って
83 ホンジュラス(5)農地のない農民
82 移民政争とラティノの力(続)
81 移民政争とラティノの力
80 ホンジュラス(4)消え去った人々
79 ホンジュラス(3)ホテル・ナンキンで
78 ホンジュラス(2)レンピーラ
77 ホンジュラス(1)行ってみよう
76 本物を見る
75 豊かな心
74 蝶の力
73 単刀直入
72 愛の表現
71 ベネット・バーガー
70 感謝の日
69 思わぬ道草(最終回)原点
68 思わぬ道草(19)回復に向けて
67 思わぬ道草(18)人は孤島にあらず
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64 思わぬ道草(16)日没症候群
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62 ニューオーリーンズとクリスチャン
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60 思わぬ道草(14)彼の青い目(下)
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57 思わぬ道草(11)看護師騒動
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39 国籍あれこれ:選択肢
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37 国籍あれこれ:私の場合
36 ボーダーとは
35 最終回:グローバリゼーション
34 番外編:クリスマス・ディナー
33 サンタアナの風
32 お刺身パーティー
31 アボカド泥棒
30 アボカドと生きる鳥
29 カラスのご馳走
28 三つ子の魂
27 子宝のもと?
26 アボカド探検家
25 ゴールドラッシュの波紋(下)
24 ゴールドラッシュの波紋(上)
23 海を渡って(下)
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20 アボカド事始め
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18 世界アボカド会議
17 フエルテ
16 ハースマザーの木(下)
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14 鶏より馬
13 働く人々
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10 「奇跡の3月」
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